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2025
難聴と認知症:聞こえと脳の深いつながり
最近、家族との会話で「何度も聞き返してしまう」と感じたり、テレビの音量を以前より上げている自分に気づいたことはありませんか?年齢のせいだとそのままにしがちな「聞こえ」の衰えですが、実は難聴は認知症の発症リスクに関わる重要な要因の一つであることがわかってきました。医学誌『ランセット』の2024年報告によると、中年期(18~65歳)における難聴は認知症の最大の修正可能(ここが大事なところです)なリスク因子であり、難聴が関与する認知症リスクは全体の約7%にも上るとされています。この数字は高血圧や糖尿病など他の要因を上回っており、難聴と認知症の関連性の強さを示しています。難聴は高齢者によく見られるため「年齢だから仕方ない」と放置されがちですが、耳の健康は脳の健康と深く関わっているのです。
難聴が認知症リスクを高める理由
では、なぜ難聴が認知症のリスクを高めるのでしょうか。専門家は主に次の三つの経路で説明しています:
- 社会的孤立: 聞こえが悪くなると会話についていくのが難しくなり、「聞き返すのがつらい」「迷惑をかけたくない」という思いから人との交流を避けがちになります。その結果、集まりへの参加や外出の機会が減り、脳への刺激が少なくなってしまいます。この社会的孤立は認知機能の低下を招き、認知症のリスクを高めることが知られています。
- 認知負荷の増大: 聞こえにくい状態では、会話を理解するために脳は普段以上にエネルギーを費やします。常に「何とか聞き取ろう」と集中するあまり、本来は記憶や思考に使われるべき脳のリソース(資源)が不足してしまいます。この聞き取りの負担が続くと、認知機能の低下につながる可能性があります。
- 脳の萎縮: 長期間にわたり十分な音刺激がないと、脳の聴覚を司る部分(聴覚野)が使われないため萎縮し始めます。その変化は聴覚野に留まらず、脳全体の萎縮や神経回路の変性を進めてしまう恐れがあります。
聞こえに不安を感じたら早めの検査を
こうした背景から、聴力が少しでも気になったら早めに検査を受けることが大切です。最近はスマートフォンで手軽に聴力チェックができるツールもありますが、あくまで目安に過ぎません。聞こえに変化を感じたら、ぜひ耳鼻咽喉科で専門的な聴力検査を受けてみてください。早めに自分の聴力の状態を把握し、必要に応じて適切な対策をとることが将来の認知症予防の第一歩になります。
補聴器の活用が脳の健康につながる可能性
最近の研究では補聴器の活用が脳の健康を守る可能性が示唆されています。2024年のランセット報告でも、難聴への対処(補聴器装用など)によって認知症リスクを減らせるというエビデンスが強まったとされています。実際、補聴器を使っている高齢者は使っていない人より認知機能の低下が緩やかで、ある解析では補聴器非装用の人に比べ3年後の認知機能低下が約50%抑制されたとの報告もあります。
耳の健康と生活習慣
最後に、聴力低下は加齢だけが原因ではないことも知っておきましょう。例えば高血圧や脂質異常症といった生活習慣病は内耳の血管を障害し、聴力低下を招く可能性があります。実際、そうした血管の病気を持つ人ほど難聴になりやすいとの報告もあります。耳の健康を守るためにも、血圧やコレステロールの管理、適度な運動やバランスの良い食事など生活習慣の見直しを心がけましょう。全身の健康に気を配ることが、結果的に「聞こえ」と「脳」を守ることにつながります。
おわりに
耳は私たちの脳の働きとも密接に結びついた大切な器官です。加齢による変化は避けられませんが、適切な対策でその影響を減らすことは可能です。もし最近少しでも聞こえに不安を感じたら、「年のせい」とあきらめずに専門医に相談してみてください。耳の健康に目を向けることが、明るい未来への一歩となるでしょう。










