脳神経外科 ふくおかクリニック

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認知症と腸内細菌のふしぎな関係

「最近もの忘れが増えてきた」「親の認知症が心配」そんな声を耳にすることが多くなりました。なかでも高齢者に多いのがアルツハイマー型認知症(AD)です。

実は今、このADと腸内細菌との関係に注目が集まっているのをご存じでしょうか?
「腸と脳?そんなに離れているのに?」と思われるかもしれませんが、研究が進むにつれて、腸が脳に影響を与える“腸-脳のつながり”が明らかになってきました。

腸の中が脳に影響するなんて

私たちの腸の中には、数百兆個もの腸内細菌が住んでいて、「腸内フローラ」とも呼ばれます。この腸内細菌たちは、食べ物を分解するだけでなく、ビタミンを作ったり、免疫を調整したり、さらには脳にも影響を与える酪酸(らくさん)などの物質を作り出しています。ところが最近の研究で、アルツハイマー型認知症の人では、この腸内細菌のバランスが崩れていることがわかってきました。
善玉菌が減り、炎症を起こすような菌が増えることで、腸の壁(バリア)がゆるみ、有害な物質が体内に入りやすくなります。それが血液を通じて脳に届き、脳内で炎症を引き起こしたり、認知機能を低下させるアミロイドβの蓄積を助けてしまうのではないかと考えられています。

つまり、「腸の中で起きていることが、脳の老化に関わっているかもしれない」というわけです。

腸内細菌を調べてわかること——個別化の時代へ

このような研究が進む中で、今後期待されているのが、腸内細菌の“個別解析”です。
人それぞれ腸内細菌のタイプは異なり、「善玉菌が少なめなタイプ」や「炎症を起こしやすい菌が多いタイプ」などがあることがわかってきました。

将来的には、一人ひとりの腸内細菌の状態を調べて、その人に合った治療を行うという「個別化腸内フローラ医療」が実現するかもしれません。

たとえば、

  • 特定の善玉菌を選んで投与する
  • 食物繊維やオリゴ糖で良い菌を育てる
  • さらには、健康な人の腸内細菌を移植する糞便移植(FMT)」などが注目されています。

FMTは、実際にがんや難病の治療で実用化が進んでおり、アルツハイマー病に対しても初期段階の研究が始まっています。マウスによる動物実験では、健康な腸内細菌を移植すると記憶力が改善したという報告もあります。

もちろん、今すぐ使える標準治療ではありませんが、「お腹から脳を治す」という、これまでにない新しい治療の可能性に、多くの研究者が期待を寄せています。

食事は今日からできる“腸へのおくすり”

こうした未来の医療を待つ間にも、私たち自身で腸内環境を整えることは十分可能です。
そのカギを握るのが、日々の食事です。

ポイントはとてもシンプル:

  • 発酵食品:ヨーグルト、納豆、ぬか漬け、味噌汁などを毎日少しずつ。腸に良い菌を直接届けます。
  • 食物繊維:野菜、きのこ、海藻、玄米、豆類など。善玉菌のエサになって腸内で増えてくれます。
  • バランスよくいろいろ食べる:単品に偏らず、定食のように主食・主菜・副菜をそろえましょう。

お腹の中の菌たちは、食事内容にすぐ反応します。腸にやさしい食生活は、からだ全体、そして脳にもやさしいのです。

おわりに~腸をととのえて、脳をまもる

「腸と脳がつながっている」という発想は、まだ馴染みのない方も多いかもしれません。
でも、腸内環境の改善がアルツハイマー型認知症の予防や進行をやわらげる手がかりになるかもしれない——そんな新しい視点が、今医学の世界で確かに広がっています。

そして何よりうれしいのは、腸をととのえることは、私たち自身の手で、今日からでも始められるということ。

毎日の食事を少しずつ見直しながら、「お腹の小さな仲間たち」を味方に、心も体も元気に過ごしていきたいですね。

 

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