12/06,
2025
歯を守れば脳も守れる?歯周病と認知症のお話
みなさんは、「歯を守ることが脳を守ることにつながる」という話を聞いたことがありますか?歯と脳、一見離れた存在のようですが、実はお口の健康と認知症には密接な関係があることがわかってきました。今回は、歯周病と認知症の関係について、わかりやすくお伝えしたいと思います。
歯周病は「静かな炎症」が全身へ広がる病気
まず、歯周病とはどんな病気でしょうか。歯周病は歯ぐきや歯を支える骨が炎症によって破壊されていく慢性の感染症です。痛みなどの強い自覚症状が少ないため「静かなる病気」とも呼ばれますが、放っておくと歯を失う大きな原因になります。それだけではなく、歯周病による炎症や細菌は血液を通じて全身に影響を及ぼす可能性があります。歯周病はお口だけの問題ではなく、全身の健康に関わる“慢性炎症性疾患”なのです。
歯周病と認知症の意外な関係
では、歯周病がお口だけでなく脳の病気である認知症に関係するとは、どういうことなのでしょうか。近年の研究から、歯周病にかかった人は認知症、とくにアルツハイマー型認知症を発症しやすいことが示唆されています。お口の中の歯周病が脳の病気のリスクを高めうることが示唆されているのです。
歯周病菌は脳にも悪さをする?
では、なぜ歯周病が脳に悪影響を及ぼすのでしょうか。ポイントは脳内の「ミクログリア」という免疫細胞と、アルツハイマー病の原因物質「アミロイドβ」です。加齢などで脳の防御バリア(血液脳関門)が弱まると、歯周病菌やその毒素が血流に乗って脳に侵入します。侵入を受けて脳の免疫細胞(ミクログリア)が過剰反応し、抗菌作用の側面を持つアミロイドβも異物を封じ込めようと必要以上に作られて蓄積するため、脳に炎症が起こり神経細胞が傷つくと考えられています。
歯周病菌が出す「ジンジパイン」と新しい治療
アルツハイマー病との関連で注目されている歯周病菌に「ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)」があります。P. gingivalis が出す酵素「ジンジパイン」は周囲の組織を壊してしまうタンパク質分解酵素です。最近の研究では、このジンジパインがアルツハイマー型認知症の発症・進行に関与している可能性が指摘され、ジンジパインを阻害する薬剤の開発も進められています。海外で行われた臨床試験では、この薬によりアルツハイマー病患者さんの認知機能低下が緩やかになったとの報告があります。薬による新しい治療法も期待されます。
「歯を守る」ことが「脳を守る」ことにつながる
ドイツのSchwahnらの研究チームは、「歯周病の治療がアルツハイマー病に特徴的な脳の萎縮に影響を与えるか」を調べました。その結果、歯周病をきちんと治療していた人たちの方が、アルツハイマー病で特に萎縮しやすい記憶を司る海馬などの萎縮が有意に少ないことが分かりました。また、日本の福岡県久山町で行われた調査でも、残っている歯が少ない人ほど認知症になりやすく、ほとんど歯が残っていない人では認知症の発症率が約60〜80%も高くなるという結果が出ました。生涯にわたって自分の歯や噛む力を維持することが、認知症予防の一つの鍵と言えるでしょう。
毎日の口腔ケアで脳も健康に
では、歯と脳の健康を守るために日頃から何に気をつければよいでしょうか。答えはシンプルで、毎日の口腔ケアを丁寧に行い、定期的に歯科検診を受けることです。例えば次のような習慣を心がけてみてください。
- 朝昼晩の丁寧な歯みがき(フロスや歯間ブラシも併用しましょう)
- 就寝前などのうがい、舌磨きでお口の中の細菌を減らす
- 3〜6ヶ月に一度は歯科医院で定期検診を受ける
毎日の小さな積み重ねがお口と脳の健康を守ることにつながります。歯の健康は体だけでなく脳の健康への第一歩でもあります。いつまでも元気に過ごすためにも、今日から皆さんで歯磨きや定期検診といった口腔ケアを見直してみてください。










