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2025
無症状なのに脳室拡大?
皆さんは、MRI検査などで「脳室が拡大している」と言われたことがあるでしょうか。脳室とは脳の中にある髄液の入った部屋で、この脳室が大きく見える状態を脳室拡大と言います。患者さんの中には、脳室が大きいにもかかわらず足元のふらつき(歩行障害)や物忘れなどの認知症状が全くない方がいます。このような状態を医学的にAVIM(エイビム)と呼びます。
AVIMとは何でしょうか?
AVIMは英語の Asymptomatic Ventriculomegaly with Imaging features of iNPH の略称で、日本語では「画像上 iNPH(特発性正常圧水頭症)の特徴を示す無症候性脳室拡大」と説明されます。MRI検査で正常圧水頭症と同じように脳室が大きく写っているのに(実際は他にも重要な特徴的所見があります。少し専門的ですが、高位円蓋部の脳溝の狭小化、シルビウス裂の拡大、DESH(くも膜下腔の不均衡な拡大)です。)本人には何の症状もない状態を指します。実際、ある調査では60歳以上の約1%にこのようなAVIMが見られたと報告されています。多くの場合、別の目的で頭部MRIを撮った際に偶然指摘される脳室拡大で、ご本人は普段通り生活できており自覚症状も特にありません。
MRIで脳室が大きいが症状がないとは?
MRIで脳室が大きいのに症状がないというのは、一見不思議に思われるかもしれません。通常、脳の水(脳脊髄液)が過剰にたまると歩行障害・認知障害・尿失禁という三つの症状(三徴候)が現れます。しかしAVIMでは、脳室の拡大があっても脳の機能に影響を及ぼすほどではないと考えられます。言い換えれば、脳にまだ余裕があり、多少水が増えても問題なく日常生活を送れている状態です。そのため患者さん自身は困る症状を感じておらず、MRI画像だけが異常を示している状況になります。
正常圧水頭症(iNPH)との関係
正常圧水頭症では、脳室拡大に加えて歩行障害・認知障害・尿失禁の三徴候が見られるのが特徴で、シャント手術によって症状が改善する可能性があります。この正常圧水頭症に対し、症状が出る前の段階ではないかと考えられているのがAVIMです。実際、日本で行われた研究でAVIMの高齢者を数年間追跡したところ、約4人に1人(25%)に新たに歩行障害や認知機能低下の症状が現れ、正常圧水頭症へ進行したと報告されています。このことからAVIMは正常圧水頭症の前段階(いわば「予備軍」)である可能性が示唆されています。裏を返せば、今は症状がない分、早期に発見できていることでその後のフォローで適切なタイミングで治療するチャンスがあるとも言えます。
基本的な対応はなぜ経過観察なのか?
AVIMと診断されても、症状がないうちは経過観察(様子を見ること)が基本方針です。すぐに治療を行う必要はありませんのでご安心ください。必ずしも将来症状が出るとは限らず、そのまま異常なく過ごせる場合もあります。したがって、症状がない段階でシャント手術を行うことは通常ありません。その代わり、定期的にMRI検査で脳の状態をフォローしつつ、歩行や物忘れの変化がないかを見守っていきます。将来的に症状が出る可能性はありますが、その際は早めに対処すれば十分改善が期待できるでしょう。
放置するとどうなるか?
AVIMに気づかず放置して症状が進行してしまうと、歩行や認知機能の障害が徐々に悪化し、重度の認知症のような状態に至ることもあります。歩行障害が悪化すれば介助が必要となるかもしれません。ですから、AVIMと診断されたら定期的にフォローを受け、少しでも異変があれば早めに対処することが重要です。
早期発見と専門医への相談の大切さ
AVIMそのものは無症状ですから過度に心配はいりません。しかし将来的に正常圧水頭症へ進行する可能性も考えると、早期発見と経過観察が大切です。定期的なMRI検査や診察で脳の状態や歩行・認知の様子をチェックしていきましょう。また、足元のふらつきや物忘れの悪化など症状が現れたら「年のせい」と放置せず、できるだけ早く脳神経外科の専門医を受診してください。正常圧水頭症は「治る可能性のある認知症」とも言われ、シャント手術など適切な治療によって症状の改善が期待できます。早期に対処すれば生活の質(QOL)も維持しやすくなりますので、気になることがあれば早めに専門医に相談しましょう。










