09/22,
2026
【47】レカネマブの皮下注射
ご家族の負担を軽くする新しい選択肢
「今の暮らしを、少しでも長く続けてほしい」。もの忘れのあるご家族を支える方々の、大切な願いだと思います。
2026年9月、アルツハイマー病の治療薬レカネマブ(レケンビ®)の皮下注射が日本で承認されました。期待できることと、注意したいことをお伝えします。
なぜ、早い段階での治療が大切なのでしょうか
アルツハイマー病では、症状が現れるずっと前から、神経細胞の外に「アミロイドβ(ベータ)」というたんぱく質がたまり始めます。レカネマブは、このアミロイドβを取り除く薬です。
しかし、アミロイドβの蓄積が進むと、神経細胞の中に「タウ」という別のたんぱく質が異常な形でたまりやすくなると考えられています。
タウは本来、神経細胞の働きを支えるたんぱく質です。しかし、異常な形でたまると、神経細胞を傷つけ、記憶力や判断力の低下につながります。そのため、アミロイドβを取り除くだけで、すでに傷ついた神経細胞が元に戻り、認知症が治るわけではありません。 神経細胞の傷みが広がる前の、早い段階で治療することが大切なのです。
現在の対象は、アルツハイマー病による軽度認知障害と軽い段階の認知症です。アミロイドβの蓄積を検査で確認し、治療が適しているかを判断します。症状がまだない方への予防投与は認められていません。
治療には、どのくらいの効果があるのでしょうか
約1,800人を対象とした1年半の点滴治療の試験では、レカネマブを使わなかった群に比べ、記憶や判断力、生活機能を合わせて評価した点数の悪化が、平均で約27%少なくなりました。
これは「27%の方が治る」「記憶力が27%よくなる」という意味ではありません。治療を受けた群でも平均としては症状が進んでおり、進行を緩やかにする効果と受け止めることが大切です。
皮下注射で、ご家族の負担を軽く
これまでの点滴は2週間に1回、約1時間かけて行います。移動や待ち時間を含めると、付き添いのご家族も半日ほどかかることがあり、負担は小さくありません。
新しい皮下注射は週1回、専用のペン型注射器を2本使います。注射そのものは短時間で済み、治療の最初から選ぶことができます。点滴と同程度の効果が期待されています。
さらに、条件が整えば在宅での注射も可能になります。 最初は医療機関で投与し、ご本人やご家族が方法と注意点を学び、医師が適切に実施できると確認することが必要です。
注射のための通院が減れば、ご本人の疲れだけでなく、送迎や付き添いを担うご家族の負担も軽くなるでしょう。私も、この変化を大いに期待しています。
注射が楽になっても、安全確認は続きます
レカネマブでは、脳のむくみや小さな出血が起こることがあります。症状がなくMRIで見つかることが多いものの、まれに重い脳出血など、命に関わる場合もあります。皮下注射になっても、この危険がなくなるわけではありません。
定期的な診察とMRI検査は引き続き必要です。新たな頭痛、ふらつき、いつもと違う混乱などがあれば、治療先へ速やかに連絡してください。突然言葉が出ない、手足が動かない、意識がおかしい場合は救急受診が必要です。治療中の薬の名前も伝えてください。
当院は、これまでどおり専門病院と連携します
当院では現在、紹介先の専門病院で始めたレカネマブの点滴治療を、途中から当院で引き継ぐことはしておりません。投与と治療管理は、紹介先に継続してお願いしています。
副作用が疑われた際の詳しい検査や、必要に応じた入院治療まで対応できる体制を大切にしているためです。皮下注射や在宅投与が広がっても、この方針は変わりません。
もちろん、ご紹介後も当院とのつながりは続きます。日々の困りごとや治療への不安は、どうぞご相談ください。認知症専門医として、期待できる効果と負担を知り、ご本人の思いも大切にしながら、ご家庭に合う選択を一緒に考えていきたいと思います。










