09/28,
2026
【50】未破裂脳動脈瘤が見つかったら -その3-
―治療が必要になったら―
前回は、未破裂脳動脈瘤をすぐに治療せず、慎重に経過をみていく場合についてお話ししました。
では、動脈瘤が大きい、形がいびつである、経過の中で大きくなってきたなど、「治療した方がよい」と判断された場合には、どのような方法があるのでしょうか。
現在の主な治療法は、大きく分けて「クリッピング術」と「血管内治療」の二つです。
どちらも、動脈瘤の中に血液が流れ込まないようにして、将来の破裂を防ぐことを目的としています。
クリッピング術とは
クリッピング術は、長年行われてきた確立した治療です。
頭蓋骨の一部を開け、顕微鏡で動脈瘤を確認し、その根元を小さな金属製のクリップではさみます。こうすることで、動脈瘤の中へ血液が入らなくなります。
大きな長所は、動脈瘤を直接見ながら治療でき、一度きちんと閉鎖できれば、長期間にわたって安定した状態が期待できることです。
特に、動脈瘤の近くから大切な血管が枝分かれしている場合などでは、クリッピング術が適していることがあります。
一方、開頭手術ですので、身体への負担は血管内治療より大きくなります。また、まれではありますが、脳梗塞、出血、脳神経の障害、けいれん、感染などの合併症が起こることがあります。
血管内治療とは
近年、大きく進歩しているのが血管内治療です。
主に足の付け根から細いカテーテルを入れ、脳の血管まで進めます。そのカテーテルを通して、動脈瘤の中に非常に細いコイルを詰める方法が代表的です。
最近では、入口の広い動脈瘤に対して、血管の内側に網目状の筒型の器具(ステント)を留置してコイルを支える方法もあります。また、「フローダイバーター」と呼ばれる、さらに網目の細かい特殊なステントを動脈瘤の入口を覆うように留置し、動脈瘤の中へ流れ込む血液を減らして、徐々に動脈瘤を閉じていく治療も行われています。頭を開ける必要がないため、一般には身体への負担が少なく、入院期間も短いという利点があります。
一方で、治療中に血管内に血のかたまりができて脳梗塞を起こしたり、まれに動脈瘤が破れたりすることがあります。また、ステントなどを使用する場合には、血液を固まりにくくする薬を一定期間服用する必要があります。
さらに、血管内治療では、治療後に動脈瘤の中へ再び血液が入り、追加治療が必要になることが、クリッピング術よりやや多いという特徴があります。
治療の危険性はどのくらいなのでしょうか
治療を考えるとき、患者さんが最も心配されるのは、「治療によって後遺症が残らないか」ということだと思います。
近年の研究では、治療後1年の時点で日常生活に大きな支障を残すような後遺症や死亡は、クリッピング術でも血管内治療でも、おおむね数%以内におさまるという報告が多くみられます。
両方の治療が可能な患者さんを比較した研究でも、1年後に大きな障害が残った割合は、どちらの治療でも約2%でした。
ただし、これはすべての患者さんにそのまま当てはまる数字ではありません。
動脈瘤の大きさや場所、形、年齢、全身状態によって、治療の難しさも危険性も変わります。
どちらの治療を選ぶのでしょうか
「クリッピングと血管内治療では、どちらがよいのですか」とよく聞かれます。
残念ながら、すべての患者さんに共通する答えはありません。
クリッピング術は、動脈瘤をしっかり閉鎖でき、再発が少ないという長所があります。一方、血管内治療は、頭を開けずに治療でき、身体への負担が比較的少ないという大きな利点があります。
例えば、中大脳動脈分岐部の動脈瘤ではクリッピング術が適していることがありますし、脳の奥深くにある脳底動脈瘤では血管内治療が選ばれることが多くなります。
最終的には、動脈瘤の場所、大きさ、形、周囲の血管との関係、そして患者さんの年齢や全身状態を総合して判断します。
大切なのは「治療すること」そのものではありません
未破裂脳動脈瘤の治療で一番大切なのは、「見つかったから治療する」ということではありません。
このまま経過をみた場合に破裂する危険性と、今治療することで生じる危険性を比べ、その患者さんにとってどちらの方が望ましいかを考えることです。
小さく安定した動脈瘤であれば、治療せず慎重に見守る方がよいこともあります。一方、破裂する危険性が高くなってきた場合には、治療を選ぶことがより望ましい場合があります。
未破裂脳動脈瘤の治療は、「怖いから手術する」「怖いから何もしない」という二つの選択ではありません。
一人ひとりの動脈瘤の性質をよく調べ、治療する場合には、その方に最も適した方法を専門医と一緒に考えていくことが大切です。









