10/04,
2026
【51】片頭痛でめまいが起きることがあります
-前庭性片頭痛について-
「片頭痛」というと、多くの方はズキズキする強い頭痛を思い浮かべると思います。しかし、片頭痛は必ずしも「頭痛だけの病気」ではありません。
光がまぶしい、音がうるさく感じる、吐き気がする、においに敏感になるなど、さまざまな症状を伴います。そして最近、特に注目されている症状の一つが「めまい」です。
片頭痛の患者さんを診察していると、「以前から、ときどきめまいもします」「頭痛のない日にも、ふらふらすることがあります」と話される方が少なくありません。このように、片頭痛と関係して繰り返すめまいを起こす病気を「前庭性片頭痛(ぜんていせいへんずつう)」と呼びます。
前庭性片頭痛とは?
私たちがまっすぐ立ったり、歩いたり、頭を動かしても周囲が安定して見えたりするためには、耳の奥にある「前庭」という器官と、脳の働きが重要です。
前庭から送られてくる「体がどちらに動いているか」という情報に、目から入る視覚情報や、筋肉・関節から伝わる体の位置の情報を脳が組み合わせることで、私たちはバランスを保っています。
片頭痛の患者さんでは、このような感覚情報を処理する脳の仕組みが一時的に過敏になったり、うまく調整できなくなったりすることがあります。その結果、頭痛だけでなく「めまい」として症状が現れることがあると考えられています。
どのような「めまい」が起こるのでしょうか?
症状はさまざまです。
「自分や周囲がグルグル回る」という回転性めまいの方もいれば、「フワフワする」「歩くと体が揺れる」「頭を動かすと気持ちが悪い」という方もいます。
スーパーやデパートの商品棚を見ていると気分が悪くなったり、人混みを歩くとふらついたり、車の流れやスクロールする画面を見ているだけでめまいを感じることもあります。
発作は数分で治まることもあれば、数時間続くこともあり、ときには1~2日ほど調子が悪いこともあります。
頭痛がなくても起こります
前庭性片頭痛では、めまいの発作中に必ず頭痛が起こるわけではありません。
「光がまぶしい」
「音が普段よりつらい」
「以前から片頭痛がある」
といった特徴から診断につながることもあります。
そのため、「長い間めまいの原因がよく分からなかった」という方に詳しくお話を聞いてみると、以前から片頭痛を繰り返していた、ということも珍しくありません。
なぜ片頭痛でめまいが起こるのでしょうか?
片頭痛では、痛みを伝える三叉神経だけでなく、脳の中で光、音、平衡感覚などを処理する神経のネットワークも影響を受けることが分かってきました。
特に、片頭痛に深く関係する「CGRP」(コラム【4】をご参照ください)という物質は、三叉神経系だけではなく、体のバランスを調節する前庭系にも関係している可能性が示されています。
つまり片頭痛は、「頭の血管が痛む病気」という単純なものではありません。脳がさまざまな感覚を受け取り、整理する仕組みそのものが、一時的に過敏になっている病気と考えると分かりやすいでしょう。
治療は可能となってきています
治療では、まず睡眠不足、疲労、ストレス、空腹、脱水など、片頭痛を悪化させる生活上の要因を整えることが大切です。
通常の片頭痛では、発作時にはトリプタンなどの頓服薬を使用し、発作を繰り返す場合にはロメリジン(ミグシス®)、バルプロ酸(デパケン®)、プロプラノロール(インデラル®)などの予防薬を使用します。前庭性片頭痛でも、これらの治療薬を利用することがあります。
最近特に注目されているのが、片頭痛に深く関係する「CGRP」の働きを抑える治療です。CGRPと前庭系との関係も研究されており、前庭性片頭痛の治療という点からも注目されています。
CGRPの働きを抑える薬には、皮下注射で使用するCGRP関連抗体薬と、「ゲパント」と呼ばれる飲み薬があります。日本でもリメゲパント(ナルティーク®)やアトゲパント(アクイプタ®)が片頭痛治療に使われています。
最近の研究では、CGRP関連抗体薬で前庭性片頭痛のめまいが減少したという報告や、リメゲパントを服用した患者さんで、めまいやふらつきの起こる日数が減少したという報告も出ています。
一方、従来から片頭痛の頭痛発作に使われているトリプタンは、前庭性片頭痛の「めまい」そのものに対しては、十分な効果が確認されなかった研究もあります。
ただし、前庭性片頭痛に対するCGRP関連薬の効果については、まだ十分な研究結果がそろっているわけではありませんが、頭痛だけでなく、めまいやふらつきといった前庭症状そのものを改善する可能性があり、今後が期待される治療です。
「めまい」と「片頭痛」は別々ではないことがあります
長い間、めまいを「耳の病気」、片頭痛を「頭痛の病気」と別々に考えることが一般的でした。しかし現在では、この二つが密接につながっている患者さんが少なくないことが分かってきました。
「昔から片頭痛があり、最近めまいも繰り返す」
「めまいの検査では大きな異常がないのに、何度も症状が起こる」
このような方では、前庭性片頭痛という病気を一度考えてみてもよいかもしれません。
原因が分からないまま繰り返すめまいは、とても不安なものです。しかし、片頭痛との関係が分かることで、症状を整理し、治療につなげられる患者さんもいらっしゃいます。
「片頭痛は頭痛だけの病気ではない」。
このことを知っていただくだけでも、これまで理由の分からなかった「めまい」を理解する一つの手がかりになるかもしれません。









