05/31,
2026
【36】耳鳴りは脳からのサインでしょうか?
「キーン」「ジー」という耳鳴りに悩まれて受診される方は少なくありません。
耳鳴りが続くと、
「脳に異常があるのではないか」
「このまま一生治らないのではないか」
と不安になるものです。
実際、耳鳴りにはさまざまな原因があります。
耳あかや、中耳炎のような身近な病気から、加齢による難聴、内耳の障害、さらにはまれですが聴神経腫瘍などが原因となることもあります。
私はこれまで脳神経外科医として、聴神経腫瘍の患者さんを数多く診療してきました。
聴神経腫瘍は主に平衡感覚を伝える神経に発生する良性腫瘍です。初発症状として耳鳴りがみられることもあります。
ただし、多くの場合は耳鳴りだけではありません。
よくお話を伺うと、
「片側の聞こえが悪くなっていた」
「以前にふらついたことがあった」
「電話を片耳で聞き取りにくくなっていた」
といった症状が隠れていることがあります。
そのため耳鳴りの診療では、
① 聴力低下がないか
② 左右差がないか
③ めまいやふらつきの既往がないか
を確認することが大切です。
必要に応じて聴力検査やMRI検査を行い、重大な病気が隠れていないことを確認します。
一方で、検査を行っても明らかな病気が見つからない耳鳴りも数多く存在します。
実は現在の耳鳴り研究では、耳鳴りは耳だけの病気ではなく、「脳の反応」が大きく関係していると考えられています。
加齢や難聴によって耳から脳へ伝わる音の情報が減ると、脳は不足した情報を補おうとします。その結果、本来存在しない音を脳が作り出してしまうことがあります。
たとえるなら、信号の弱いラジオが雑音を発するのに似ています。
耳鳴りが高齢者に多いのは、このためです。
最近の研究では、耳鳴りそのものよりも、
「耳鳴りをどれだけ不快に感じるか」
に脳の情動系や不安に関わる神経回路が深く関与していることも分かってきました。
耳鳴りを気にし始めると脳はそれを重要な情報と判断します。
するとさらに耳鳴りに注意が向き、より大きく感じるようになります。
この悪循環が、耳鳴りをつらい症状にしているのです。
したがって現在の耳鳴り治療は、
「耳鳴りを完全に消す」ことだけを目標にするのではなく、
「耳鳴りに脳が過剰反応しなくなる」ことを目指します。
補聴器による聴覚補正や、耳鳴りに対する正しい理解、生活習慣の改善などによって症状が軽くなる方も少なくありません。
耳鳴りは決して珍しい症状ではありません。
しかし、最初から「年のせい」と決めつけるべきでもありません。
まずは原因となる病気がないかを確認すること。
そのうえで耳鳴りの仕組みを理解し、不必要な不安から解放されること。
それが現代の耳鳴り診療において最も大切な考え方だと思います。










