06/21,
2026
【38】「レム睡眠行動異常症」という病気について
ご家族から、次のようなお話をうかがうことがあります。
「夜間、睡眠中に急に大きな声を出すので、びっくりしました」
「夢の中で誰かとけんかしているように、手足を動かします」
「隣で寝ていたら、蹴られてしまいました」
ところが、ご本人にたずねると、
「まったく覚えていません」
「そんなことをした記憶はありません」
とおっしゃいます。
このような症状の中に、レム睡眠行動異常症という病気が隠れていることがあります。英語ではRBD(Rapid eye movement Behavior Disorder)と呼ばれます。
夢を見ている時、普通は体にブレーキがかかっています
私たちの睡眠には、いくつかの段階があります。
その中に、夢を見やすい「レム睡眠」という時間があります。
夢の中では、走ったり、叫んだり、誰かと争ったり、何かから逃げたりしていることがあります。
しかし普通は、夢の内容に合わせて実際の体が動かないように、脳が体にブレーキをかけています。
つまり、夢の中で走っていても、実際に足を動かして走り出すことはありません。
夢の中で大声を出していても、実際には大声を出さずに眠っていられることが多いのです。
RBDでは、このブレーキが弱くなります
レム睡眠行動異常症では、この「体を動かさないためのブレーキ」が弱くなります。
そのため、夢の中の行動が、実際の体の動きとして出てしまいます。
このために冒頭のような「夜中に大声を出す」などの症状が出ます。
ご本人は眠っている最中なので、翌朝には覚えてはいません。
ですから、これは「わざとやっている」ことではありません。
「寝言が多いだけ」とは違うことがあります
もちろん、寝言そのものは珍しいことではありません。
疲れている時や、ストレスが多い時に寝言が増えることもあります。
しかし、声だけでなく、手足を大きく動かす、蹴る、殴るような動きをする、ベッドから落ちる、隣で寝ている人が危ない思いをする、という場合には注意が必要です。
また、睡眠時無呼吸症候群、薬の影響、夜間のてんかん、ほかの睡眠の病気などでも似た症状が出ることがあります。
そのため、「夜中に暴れるから、すぐにRBD」と決めつけるのではなく、症状の出方、薬の内容、いびきや無呼吸の有無、日中の眠気、歩き方、物忘れ、幻視などを含めて、全体を見ていくことが大切です。
将来の病気のサインになることがあります
このレム睡眠行動異常症が注目されている理由は、睡眠中の問題だけにとどまらないことがあるからです。睡眠検査でRBDと確認された方を長く追跡した国際研究では、10年ほどの間に半数以上の方で、レビー小体型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症などの神経の病気が見つかったという報告もあります。
レビー小体型認知症では、物忘れだけでなく、
誰もいないのに「そこに人がいる」と感じる。
カーテンや壁の模様が人の顔に見える。
日によって、また時間帯によって、頭のはっきり具合に波がある。
歩き方が小刻みになる。転びやすくなる。
このような症状がみられることがあります。
RBDは、こうした病気の一つのサインとして、認知機能の低下よりも前からみられることがあります。
ただし、ここで一番大事なことがあります。
RBDがあるからといって、必ず認知症になるという意味ではありません。
将来そのような病気が出てくる可能性があるため、長い目で注意して見ていきましょう、というサインです。
不安にさせるためではなく、早く気づくために
「将来、認知症になるかもしれない」と聞くと、とても不安になると思います。
ご本人もご家族も、心配になるのは当然です。
しかし、RBDを知る意味は、不安を大きくすることではありません。
むしろ、早めに気づき、落ち着いて経過を見ていくためです。
夜の様子だけでなく、
最近、物忘れが増えていないか。
見間違いや幻のようなものがないか。
歩き方が変わっていないか。
便秘や立ちくらみが強くなっていないか。
日によってぼんやりする時間がないか。
こうした変化を、あわてずに確認していくことが大切です。
病気は、早く気づくことで対応しやすくなることがあります。
また、睡眠中のけがを防ぐこともできます。
まず大切なのは、けがを防ぐことです
RBDが疑われる場合、まず大切なのは安全対策です。
ベッドの周りに危ない物を置かない。
角のある家具を近くに置かない。
ベッドから落ちてもけがをしにくいように工夫する。
必要に応じて、床にマットを敷く。
このような対策だけでも、けがを防げることがあります。
「年のせい」「寝相が悪いだけ」と片づけないでください
夜中に大声を出す。
夢に合わせて手足を動かす。
隣で寝ている人を蹴ってしまう。
本人はまったく覚えていない。
これらを体からの小さなサインとして、一度きちんと確認しておくことは大切です。
ご家族が「何かおかしい」と感じたことは、診療の中でとても重要な手がかりになります。
最後に
レム睡眠行動異常症は、眠っている間に起こるため、ご本人だけでは気づきにくい病気です。
そして、この病気は「夜中に声を出す病気」というだけではなく、将来の脳の変化を教えてくれるサインになることがあります。
ただし、RBDがあるからといって、すぐに認知症になる、必ずパーキンソン病になる、ということではありません。
大切なのは、こわがりすぎず、軽く見すぎず、長い目で見守っていくことです。
夜中の大声、手足の動き、けがをしそうな行動が気になる場合は、一度ご相談ください。
ご本人とご家族が安心して眠れるように、症状の意味を一緒に考えていきたいと思います。










