認知症による物忘れが年齢相応の物忘れと違う点は記憶の内容が固まりとして抜けてしまうことです。例えば、先週に親族の結婚披露宴に出席したこと自体を全く忘れる(通常は隣に席にいた人の名前が思い出せないなどはよくあることですが)、何度も同じことを聞く、時にはお金を取られたなどの被害妄想も出ます。また、主婦の場合は冷蔵庫にあるものをまた買ってくる、食事の手抜き(惣菜で済ませる)も目立つようになります。怒りっぽくなる方もいます。
トイレに知らない人がいる、タオルに虫が這いずっている(幻視)と訴えることもあります。小刻み歩行になり、よく転倒することもあります(パーキンソン様の歩行障害)。
当院では、ご本人と、ご家族から物忘れの具体的なエピソードを詳しくお聞きします。その後、神経心理学テスト(長谷川式テスト、ミニメンタルテスト、時計の描画テスト、動物想起テスト、手真似テストなど)をさせていただきます。神経検査では歩行状態、またパーキンソン様兆候の有無もチェックします。
また、MRIで脳腫瘍などの器質的障害があるかどうかをチェックします。短期記憶をつかさどる海馬の委縮の程度も把握できます。
以上の所見より認知症かどうか、そうならどのタイプの認知症かを鑑別します。タイプとして「アルツハイマ-型」、「レビー小体型」、「脳血管性(または混合型)」などがあります。時には鑑別診断が難しいこともあります。今後の治療方針を決めるために、脳血流検査(SPECT)が鑑別診断に大いに役立つことがあり、必要と判断した場合には中村記念病院でその検査を受けていただくことをお薦めしております。必要な手続き、予約などはすべて当院がいたします。
早期より的確に診断がなされれば、その進行を遅らせる薬を服用したり、周囲の理解などにより、自立した社会生活を長らえることができるからです。
一方、脳腫瘍、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫などは同様の認知障害をきたすことがありますが、脳神経外科的な治療で劇的に回復いたします。ご自身またはその家族の方で気になる症状がありましたら、ためらわずに受診されることをお勧めします。